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40年間かたときも離れず
過ごした
夫と、これからも
ずっと一緒にいたい

願ったら、「手のひらの厨子」

目の前に現れたのです。

本名 まり子さん

本名 まり子さん

まり子さんの夫、本名善兵衞氏は、2010年3月に亡くなった。福島県郡山の名物「薄皮饅頭」を製造販売する老舗「柏屋」の4代目当主で、遊び心を忘れずに創意に満ちた人生を歩んだ人だった。生前の善兵衞氏は、まり子さんに、かたときも離れずに側にいて欲しがった。「3分姿が見えないと、おかあさん、おかあさん、と母を探して呼んでいた」と長男で5代目を継いだ本名幹司氏も言う。
最後の10年間は病に冒され、経営の第一線からは退いていたが、それでも車椅子でどこへでも出かけた。もちろん、まり子さんも必ず一緒だ。どんな時も離れない、離さない。それが善兵衞氏のまり子さんへの愛情表現であり、何をさておいてもまり子さんに望んだことである。

そんなまり子さんを残して亡くなったことは、どんなに心残りだったろう。まり子さんもまた、善兵衞氏のいなくなってしまった生活に慣れることができなかった。
「いつもずっと一緒にいたい」。そう思ったまり子さんは、かつて善兵衞氏にプレゼントされたクリストフルのアクセサリーが入っていた四角い小箱に、真綿に包んだ小さなお骨を入れて、写真と一緒に持ち歩くようになった。こうすれば、寂しがり屋だった善兵衞氏を家で留守番させることなく、どこへでも安心して出かけられることができた。その一方で「もっとしかるべきものに入れて連れて行ってあげたい」と思い、納得できる箱をいろいろと探していた。

箱形の厨子

そんな最中に、長男夫婦が連れて行ってくれたのが、会津若松の「アルテマイスター」のショールームだった。「あのときの驚きは忘れられません」と、まり子さんは言う。車を降りてふと見ると、ガラスの向こうに、「それはきれいな小さな厨子が並んでいた」のだ。

中でもまり子さんの心を捉えたのは、黒檀で作られた手のひらに乗るぐらいの箱型の厨子だった。中にはお骨と写真が入るようになっている。スライド式で開く蓋の後ろには、名前も彫れるようになっていて、まり子さんは孫が書いた字で戒名を彫ってもらった。

この厨子は家族の間でも評判になった。まず長男の幹司さんが「僕も持ちたい」と言い出し、続いてベトナムで指揮者をする次男、埼玉に嫁いた長女と、一家が全員同じものを持ち合うようになったのだ。

「この厨子を見ると、『親父に見られているな』と思って力が出ます」と幹司さんは言う。まり子さんの愛情が見つけ出した「手のひらの厨子」は、まり子さんだけでなく一家を善兵衞さんとつなげてくれている。

出典:「新しい祈りのかたち」を創る
発行:繊研新聞社